8月27日に韓国から伝わって来た「ミン・ヒジン氏ADOR代表解任」の報。HYBE側は5月31日の株主総会での解任はできなかったが、元々持っていた取締役会議での解任権を行使。これを受けてNewJeansのメンバーも反応するなど波紋が広がっている。
現状を韓国メディア「アジア経済」のキム・ヒョンミン記者がこう解説する。
「ミン・ヒジン氏の解任については、HYBEとADORが常に権限を持っていたため、タイミングを見計らっていたところ、少し関心が薄れた今、実行したように見えます。雰囲気から判断すると、ミン・ヒジン氏を解任することで、会社に危機があるという周囲の認識を払拭しようとしたのが最大の理由だったようです」
「ミン氏にNewJeansなどのアーティストを支援する役割はそのまま残しつつ、高い地位から降ろし、結果的に証券市場でHYBEの株価が上昇するのに寄与したという評価が韓国では多いです。HYBEは結局、証券取引所に上場している株式会社なので、株主の目を気にせざるを得ず、そのため、いつでもミン・ヒジン氏が代表を辞めさせられるようにしていたと見られます」
一方で、筆者自身この話をずっと追ってきて思うところがあった。
「なんでこんなに話が難しいのか」
5月頃の大騒動から一段落して情報や考えを整理できた面もある。この点を示してみたい。
4ヶ月以上の騒動…大騒ぎも…実はポイントは「たった5つ」
実は今回の騒動、「幹」となる本質的部分は、5つしかポイントがない。
本質的部分とは、HYBE側が打ち出した「株と人事の話」だ。
①今年2月 HYBEとADORの間で株主間契約の見直しの交渉があった。この場でHYBEとしては受け入れ難い条件提示がミン氏側からあった。ミン氏の任期満了後の株売却による受取金額について。
②4月22日 HYBE側が不審に思い、ADORに対して監査(調査)を開始。会社で最高権限がある株主総会を招集して解任したい旨も公表する。これが経済ニュースとしてスクープされる。
③5月7日 ADOR側が裁判所に対し「解任は不当」「株主総会での解任を止めるための仮処分申請」を行う。
④5月30日 仮処分申請が認められ、5月31日の株主会議での解任はナシに。
⑤8月27日 HYBE側は次の権限である取締役会議を開催し、ミン氏を解任。
この5つだけ。実際のところ、韓国芸能界でも伝説的とされた4月25日の会見とて話の本質とは外れるところにある。
双方、以前から感情の対立はあったのかもしれない。しかし今回の話の本質は「株主間契約の交渉のもつれ」から始まっている。これを感じさせたのが、5月2日にミン・ヒジン側からプレスリリースが発表された際のことだ。騒動真っ盛りの折に、eメールの添付ファイルにて韓国メディアに送信された内容。その際のメールの導入文に、本当にサラッとこの内容が記されていた。
「ならば(これほどにもめるならば)、株主間契約の再交渉をしたらどうですか?」
問題の発端は株主間契約の交渉にあった。「会社乗っ取り疑惑」はそこから派生した話。これをミン氏側も認識している部分があったのではないか。
難しくなった理由① 「枝葉」のエピソードがスゴすぎ
ではなぜ、この話がなぜ複雑になったのか。理由は2つある。
まず、「幹」から少し外れる「枝葉」の話があまりに派手だった。言うまでもないだろう。もはやこちらの方が大きな話題になった。「ILLITのコピー疑惑」「LE SSERAFIMとNewJeansのデビュー時期を巡る葛藤」「シャーマン祈祷とBTS」「名誉毀損」「ファンによる抗議行動」「NewJeansメンバーによる嘆願書」。多くは4月25日の伝説的会見と関連して出てきたものだ。
筆者自身も恥ずかしながら、騒動が起きた5月前後は、冷静に情報が整理しきれていなかった。ミン氏の会見から出てきたエピソードに飛びついた。韓国メディアもそうだったと思う。しかしあの会見とて、実のところ本質的な「株主間契約に始まる人事の話」にはほとんど答えていなかった。まあ、言ってしまえば、ミン氏の戦術にまんまとハマったのだった。ミン氏は繰り返し「(持ち株比率が低い)自分が不利なのは分かっている」と繰り返してきた。話を反らしつつ、世論に訴える作戦は彼女サイドにとっての常套手段でもあった。
そこにはもう一つ、ミン・ヒジン氏の言葉による表現力の巧みさも影響力があった。さすが腕利きプロデューサー。うっとりするほどだった。HYBEがレーベルを子会社化し、強大な力を維持する点をこう比喩したこともあった。
「まるで軍隊でサッカーをやるみたいに、すべて兵長にパスするような…」
難しくなった理由② 「会社関連の法律・裁判用語多すぎ」
もう一つ、この話が難しくなった理由がある。
出てくる単語が法律用語(商法や裁判関連のもの)ばかり。
株主間契約、子会社、株主総会、取締役会、取締役人事、議決権、株式譲渡、定款、プットオプション、インサイダー取引、仮処分申請、審議…。
前述の通り、このニュースは最初、韓国での上場企業関連の人事に関する「経済ニュース」として扱われた。一方、5月7日に「臨時株主総会議決権行使を防ぐよう求め出していた仮処分申請」が争点になって以降、話は裁判関連のものに移っていった。5月17日の裁判所での審議の決定が保留になった後、韓国メディアとて決定がどうなっていくのか予想が難しくなった。筆者自身、もはや頼れるのは、韓国の弁護士のグループが発行する「法律新聞」「法曹新聞」の2媒体だけになってしまった…。
これまでK-POP関連の内紛といえば「メンバーと会社」あるいは「メンバーの親と会社」という構図がほとんどだった。しかし今回は「会社対会社」という前代未聞の構図だ。するとキーワードも難しくなる。そういった背景もある。
(了)