韓国のZ世代が最近よく使ってる新語(韓国語では「新造語」という)は何?
そんな調査を韓国のオンライン語学学習プラットフォーム「Preply」が行った※。多くは韓国で数年前から使われているものもあり、日本の読者の皆様にもおなじみのものがあるか? 大解剖してみよう。
※同プラットフォームが専門調査機関を通じて韓国人約1500人を対象にアンケート調査を実施。
これ「凍え死んでもアイスアメリカーノ(あるいはアイス)」という意味。「オロ チュゴド アア(얼어죽어도 아아)」の略語。2020年あたりから使われている。
何なのかというと「若い人たちがとにかく早く出てくる飲みのものを好む」という状態を示す言葉。急いでいるという状況を伝えるというよりも、マーケティング的に「冬にも冷たい飲み物が売れている」という状態を指すニュアンスの方が
「海外でも注目を集める韓国の『オルチュカ』トレンドが今年はさらに濃くなっている。早く手軽に飲めるという利点のため、カフェだけでなくコンビニでも人気を集めている」(中央日報)。韓国の若者がそれほどにスピード感を求めているということを、ちょっとイジるというニュアンスだ。
「オルチュガ」の最初の「オル」は、今年の春先頃に流行った「コンコンオロプトゥン ハンガンウィエ コヤンイガ コロタニムニダ」(コンニャンチャレンジ)のなかの「オロ」と同じ。つまりは「凍る」ということ。
この言葉を見ていてすごいのが、略語のなかにさらに略語が入ってること。「オルチュガ」は細かく分けると「オル チュク ア」。このうち、最後の「ア」は「アア」の略。その「アア」自体が…「アイスアメリカーノ」の略なのだ。「アア」は韓流ドラマの2020年の名作「サイコだけど大丈夫」で、主人公のコ・ムミョン(ソ・イェジ)が、相手役のガンテの兄サンテとのおしゃべりのなかで「最近の流行語を覚えなさい」という事例でも登場する。
余談だが、韓国に行った際にカフェでアイスコーヒーを飲みたいと思ったら、必ず「アイスアメリカーノ」と言って頼もう。おっちゃんたる筆者など、うっかりソウルのオシャレカフェで昔風の「アイスコーヒー」と言ってしまい、若い店員から表情も変えられずに「はいアイスアメリカーノですね」と言い返されたこともある。なんならこの新語「オロチュガ」のうち、「アア」だけを切り取って使ってみるというのも、韓国語学習者にとっては実用的なアイデアだ。
これはアメリカのヒップホップ系ラッパーが使っているスラングを、そのまま韓国の若者が使っている事例だ。Flexとは直訳すれば「体をほぐす」「力を入れる」といったところ。これを「ヤツら」は「高いものを買って力を示す」という意味で使うのだとか。
それゆえ韓国でも、上の「オルチュガ」よりも用法がよりはっきりとしている。
「俺、ちょっとフレックスしたんだよね~」
靴でも時計でも服でも彼女へのプレゼントでもなんでもいい。高いものを買って「どうだこれ?」というニュアンスで自慢げに話す時に使う言葉だ。
ただし外国人が使ってみる際には注意が必要。「Flex」の発音は韓国語だと「プゥレックス」に近い音になる。
「重要なのは折れない心」の略語。「チュンヨハンゴン コッキジアンヌン マウム」から。
日本風に言うと「凹むなよ」「気持ちを切り替えて」といったニュアンスで使える。
流行ったきっかけが明らかな言葉だ。2022年9月から11月にかけて行われたeスポーツの世界大会「リーグオブレジェンド ワールドチャンピオンシップ」で優勝した韓国のチームDRXのコメントから。チームは大会序盤のグループリーグ形式で戦ったステージ1の初戦で敗戦。優勝を狙うには手痛いものになったが、試合後に選手の一人キム・ヒョッキュが残した言葉から始まった。
「今日は負けはしましたが…自分たちさえ崩れなければ十分に勝っていけると思います」
これがなぜ「チュンコッマ(重要なのは折れない心)」になったのか。じつはこの時の韓国メディアの記者が取材後、「インタビュー全体の内容をまとめ直したフレーズ」としてYouTube動画のサムネイル画面に織り込んだことからだった。
韓国から世界大会に出場したDRXは、その言葉通りしっかり立ち直り、10年ぶりの優勝。もともとeスポーツへの関心度が日本よりもはるかに高い韓国では、これが感動を呼ぶニュースとして大きく取り上げられた。プロゲーマーたちは結果の出ない10年間を耐え抜いたストーリーが関心を集めたのだ。その背景にあったのが「チュンコッマ」だった。
一方これが大きく拡散されたのが、同年の11月下旬に開幕したサッカーのカタールW杯だった。グループリーグ初戦でウルグアイに引き分け、第2戦ではガーナに敗れた。絶体絶命の危機の中、最終戦はグループ最強と見られたポルトガル。この試合で韓国は耐える展開を凌いで2-1の勝利。結果、かろうじて3試合の総得点により12年ぶりの決勝トーナメント進出を決めたのだった。この劇的な勝利後、選手たちが掲げた韓国国旗に「チュンコッマ」の文字が書かれていたのだ。近い時期のスポーツでの感動ストーリー2つによって一気に広まっていったのだった。
いずれも3~4年ほどかけて韓国で浸透していき、2024年上半期の上位ランキング入りを果たしている言葉たちだ。調査を主催した韓国のオンライン語学学習プラットフォーム「Preply」は11位までを発表し「近年は英語をそのまま使ったものが多く、ほぼ半数がそれに該当」とまとめている。
確かにK-POPでも「近年はサビのほとんどが英語」という歌が増えているが、これらトレンドが反映されたものでもあるではないか。そんなことも感じさせた。
以下、同プラットフォームが発表した11位までのランキング。
順位 | 新語 | 意味 | 使用していると答えた回答者 % |
---|---|---|---|
1 | 얼죽아(オルチュガ) | 「凍え死んでもアイスアメリカ―ノ」の略語。カフェでもアイスコーヒーが出てくるのは早い。韓国の「急げ急げ」文化を意味する ‘얼어죽어도 아아’ | 70.64% |
2 | 플렉스 (Flex=フレックス) | 「高級なものを買って自分の力を誇示する行為」を意味 | 52.07% |
3 | 중꺾마(チュンコッマ) | 「重要なことは折れない心」の略語。諦めない精神を強調する言葉 ‘중요한 건 꺽지 않는 마음’ | 51.05% |
4 | TMI | 「Too Much Information(情報過多)」の略語 | 46.01% |
5 | 알잘딱깔센(アルジャルタッカルセン) | 「お任せで、うまく、綺麗に、センスよく処理して」の略語 알아서 잘 딱 깔끔하고 센스있게 | 43.71% |
6 | 이왜진(イウェジン) | 「これ、なんでこんなに真剣なの?」の略語 ’이게 왜 진짜?’ | 38.03% |
7 | 억텐(オクテン) | 「無理やりテンションを上げる」の略語。気分が良くないのに無理して楽しそうにする時に使う 억지로 텐션을 높인다 | 35.10% |
8 | -며들다(ミョドゥルダ) | 「内に染み込む」「心の奥深くに感じる」という意味の「스며든다(スミョドゥンダ:染み込む)」の前に、人名や特定の名詞の一文字を取って付けた合成語。「〇〇の魅力にはまる」という意味で使われる。 | 34.97% |
9 | 홀리몰리(ホリモリ) | 何かに驚いた時に使う感嘆詞「Holy Moly(なんてこった)」から派生した言葉 | 29.67% |
10 | 사바사(サバサ) | 「人 by 人(人それぞれ)」の略語 사람 by 사람 | 28.40% |
11 | 고트 (G.O.A.T.)(ゴート) | 「Greatest of All Time(史上最高)」の略語 | 27.63% |
(了)
執筆=吉崎エイジーニョ(編集長)