暑いこの時期に、めちゃくちゃ熱い韓国料理の話を。
「プデチゲ」
チゲにソーセージやスパムが入っている。そこから出てくる風味が、スープに新たな味わいをプラスする。そこに加わるラーメンがまた絶妙で、すべての味のエッセンスを吸い込んだ韓国独自の太麺がスルスルッと口に入っていく。
このプデチゲで、いま新風を吹かせつつある商品がある。
「しあわせプデチゲ」
日本のブランドとしてはじめてプデチゲの冷凍食品での商品化を実現した。水を注いで7~8分火に通せば完成する。山口県の山陽小野田市に拠点を置く「しあわせキッチン」が製造販売する。
これが、地元で話題沸騰だ。関連情報が山口のテレビ局「YAB」で2度オンエアされ、「山口新聞」にも記事が掲載された。その美味から、下関市の大手デパート「大丸」から熱烈出店オファーが届くほどだ。
なにせ、味に「遠慮」がない。それでいて美味しい。日本ブランドが作る韓国食品といえば、「少し日本風に辛さをマイルドに」というものも多いが、この「しあわせプデチゲ」は、韓国の風味そのままが再現されている。ピリッと辛く、韓国の風味がふわっと広がってくる。
「しあわせキッチン」を運営する株式会社サードチャレンジの岡本昭宏代表がいう。
「プデチゲマニアという粉末スープを使っています。私が2012年から運営する別会社『チョイスジャパン』の商品です。日本の家庭でも韓国料理を美味しく食べてもらいたい、という思いから韓国の名店の味を分析して、粉末状にしたものです」
研究し尽くされたスープに、キムチやスパム、韓国独自のインスタント麺「サリ麺」が加わっての美味なのだ。プデチゲマニアは開発に1年かかり、その後始まった「しあわせプデチゲ」のミールキットのテスト製造・販売は去年の10月から始まっている。
障がい者就労支援ブランドにとって「おいしい」の声が力になる!
この「しあわせプデチゲ」、普通にめちゃくちゃ美味しいというだけで話は終わらない。
「つくる人の気持ちが込められている」
障がい者ブランドなのだ。山口県山陽小野田市のキッチンで、就労支援が必要な人たちが丹念に作っている。そこには岡本氏の「一人ひとりの可能性を最大限に引き出し、チームワークによって共にしあわせになる」という思いがある。
ただ、このプデチゲにたどり着くまでの道のりは平坦ではなかった。
「しあわせプデチゲ」は、通常の事業所で雇用されることが困難で、雇用契約に基づく就労も困難な人たちが対象の「B型支援」に基づいて作られている。これは継続雇用が可能な「A型支援」よりも事業化が難しいものだ。地元山口県でこれを手掛ける岡本昭宏氏が言う。
「まずは利用者が集まるだろうか。そこから悩みがありました。そして、事業をスタートした当初は地元企業相手の弁当の制作を手掛けていたのですが、発注量の変動が激しく、材料の仕入れが難しかった。事業は赤字を出してしまい、一度は頓挫しました」(岡本氏)
いっぽう、商品化を研究を続けてきた「プデチゲの冷凍食品」は保存期間が長く、この悩みを解消するものだった。
「おかげさまでプデチゲをはじめとして、納豆チゲ、海鮮チゲといった冷凍食品は好評をいただいています。8月10日から18日までの下関大丸での出店時にはおひとりで16パック買っていかれるお客様もいました。今、私たちの『しあわせキッチン』の人件費は従来の基準の2倍に近づきつつあります」
職員たちは丹念に食材を「しあわせプデチゲ」に詰めていく。規定の各食材のグラム数を守りながら、作業が進む。岡本氏は繁忙期に共にキッチンに立ちながら感じることがある。
たったひとつのことで、作り手側の意識も変わりつつあるのだ。
“おいしい、と言ってもらえること”
地元山陽小野田市からの期待も高く、事業をやっていく場所を提供したい、との声も出ているという。
暑い日に、ぜひともこの熱々のプデチゲを。韓国には「以熱治熱(イヨルチヨル)」という言葉がある。
「熱を熱で制する」という概念を表す四字熟語だ。暑い夏の日に(あくまで涼しい環境を確保した上で)熱いものを食べる。するとより健康になれる、という考え方だ。
現場を取材して、ある点を感じた。「カップラーメンの延長線上と考えてもなかなかいけるのでは?」。冷凍庫に入れておいて、さっと調理。調理時間を数分プラスするだけで、スパムやソーセージからタンパク質を多く摂取可能なのだ。しかもこの鍋、「おいしい」といわれることを大いなるモチベーションにしている人たちが作っている。ああしあわせなことだ。みんなが幸せになる。
写真=しあわせキッチンおよび筆者撮影