DA DA RA DA DA DA DA RA DA DA DA DA RA DA DA
このフレーズをYouTubeで聞いたことはないだろうか?
2026年3月11日リリースのK-POPソロ歌手YENA(イェナ)の楽曲「Catch Catch」。
3月のリリース直後から、X(旧Twitter)には日本語でそんな感想が並んでいる。
「イェナの新曲、アルバム通して全曲やばい」「新曲可愛すぎる」
じゃあなぜ、6月になる今、この曲を取り上げるのか。
異例のロングセラーになっているからだ。
韓国最大の音源サイト「メロン」では、K-POPの新曲のチャートは発売直後に跳ねて、数週間で圏外に消えるのが通例だ。ところが「Catch Catch」は逆の動きをした。発売当日のメロン日間チャートは151位だった。3月30日(発売から約20日後)に初めて100位以内に入り、4月11日には26位。5月1日の夜10時、初めてTOP10(10位)に入った。5月10日にはついに6位に。現地メディア「ISフォーカス」のパク・セヨン記者は2026年5月11日付の記事でこの動きを「ゆっくりと着実な正走行の勢い」と表現した。
最近のITZYの「THAT’S A NO NO」のような「逆走行(過去の楽曲が数年後に急に上昇する)ではなく、地道に積み上がる珍しい動きとして区別されているのだ。
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楽曲全体では、そういう恋愛の駆け引きをすることに決めた女性が、ちょっと大人になりたい。でもウサギちゃん(本人がファンからつけられた愛称)でもありたい——という25歳の心理を描いたものだ。
そのなかで、異例ヒットの要因となっているフレーズが「DA DA RA DA DA DA DA RA DA DA DA DA RA DA DA」だ。意味のある歌詞ではない。音節だけのフックだ。ただこれは、筆者の分析では「本当はお互いが好きだって分かってるけど、あえて駆け引きに持ち込んでいる」女子が、「自分もホントは苦しいけど、まあ余裕を見せていきましょ」という心情の表れと見た。
この曲、一体何を歌っているのか。
「私の心を捕まえて」の深~い意味
韓国でリリースされている公式の説明はこうだ。
「追いかけて追いかけられる関係の緊張感を軽快に溶かし込んだ曲で、中毒性の強いメロディと弾けるエネルギーが相まって、愛の駆け引きを中毒的に表現した」
歌詞ではイントロからすでにある宣言をしている。
Hey Catch my heart Ca-ca-catch my heart Baby
「私の心を捕まえて」——冒頭の一行で、これが恋愛の歌であることは明らか。ただし「捕まえて」と言いながら、語り手はAメロで即座にこう返す。
ケトゥロ バソヌン ナル モルラヨ(外見からは私のことはわからない)
コダラン ナムドド チャル オルラヨ(大きな木にもよく登れるよ)
シリョグン オルマナ ット チョッケヨ(視力はどれだけいいと思ってる?)
ワンジョン Good ダ アランガ モルラ(完全にGood、全部わかるかな)
「私の心を捕まえて」と言ったそばから「でも私はあなたが思うような子じゃない」と畳みかける。この矛盾が、この曲の駆け引きの構造そのものだ。
プレサビで、相手の動揺が語り手に伝わってくる。
オ オ サルチャックン(Oh oh、ドキッとした)
オ オ ヌッキム ワッチ(Oh oh、感じが来た)
オ オ ムピョジョンハン オルグルド チェミッネ(Oh oh、無表情な顔も面白いね)
オ オ チリッテ(Oh oh、ぞくぞくする)
オ オ ッタク コルリョッチ(Oh oh、ばれちゃった)
ソロ ヌニ マリヤ(お互いの目が語ってる!)
「ばれちゃった」——気持ちがばれたのは相手だ。語り手ではない。
そしてサビ。
シムジャンイ Up down down ット Up down(心臓がUp down down、またUp down)
サランエ ファサルル タンギョ バ(愛の矢を引いてみて)
シムジャンイ Up down ット Up down(心臓がUp down、またUp down)
イロダ ノッチゲッソ(このままじゃ逃してしまう) Catch catch
心臓がアップダウンしているのは「相手」であって、語り手ではない。揺らされる側ではなく、揺らす側として曲が組み立てられている。その直後に来るのが、あのフックだ。
DA DA RA DA DA DA DA RA DA DA DA DA RA DA DA
意味のある言葉を持ち込まない。音節だけで軽やかに流してしまう。筆者はここに、この曲の核心を見ている——大人の駆け引きをしながら、重さを手放せるウサギちゃんの身軽さだ。
2番では自分をこう定義する。「クマとキツネ、両方に似ているでしょう」。かわいさとしたたかさの二面性を一行に収めた。ブリッジでだけ、語り手は本音を明かす。「昔も今も、気持ちをしっかり隠すことができない」。強がりながら隠しきれていない——語り手が相手を好きなことは、ここで確定する。
最後に思わず「Baby, catch me now」
そして曲の末尾、一行だけ置かれたフレーズがある。
Baby, catch me now(私を捕まえて)
イントロの「Catch my heart Baby」と呼応する。全編通じて余裕を見せ続けてきた語り手が、最後の一瞬だけ隙を見せる。これは降参ではなく挑発だ。でも同時に——やっぱりウサギちゃん(YENAがファンからつけられた愛称)だ、とも読める。
MVはその構造をそのまま映像にしている。
冒頭、ぬいぐるみのウサギが本物のウサギに変わる。イェナは3月23日公開の公式チャンネルでのMVコメンタリー動画でこう言った。「ウサギなのかYENAなのか?」。イェナの愛称は「トッキイェナ(ウサギイェナ)」だ。「外見からは私のことはわからない」という歌詞の一行目が、この映像でまず語られている。
さらにMVのコンセプトについてイェナはこう語った。
「2026年のYENAの姿をとても成熟したものとして、美しく表現しようと努力しました」
MVリリース後に最も多く視聴者から届いたコメントは「YENAが成熟した」だったらしく、イェナは「作戦大成功!」と答えた。「ベビー・ヒーローYENAから完全に大人のヒーローYENAへの変身」というのが大きな軸になっている。
ただし変身しても、ウサギはウサギなのだ。25歳。大人になりかけていても、そのままでありたい部分も持っている。
韓国女性に受け入れられてこその「異例のヒット」
なぜ2026年にこの世界観が韓国でここまでウケるのか。理由は明確で、韓国の女性に支持されたからだ。
そもそもK-POPの楽曲の多くは世界を目指して作られてはいない。現在はSTAYCのプロデューサーを務め、かつてはTWICEのTT・FANCYなどの作曲を手掛けたラド氏は、2019年8月の筆者とのインタビューでこう答えている。「ヒットの要素というのは、最近の韓国の女性の考え方にあるものなんですよ」(Kstyle、2019年8月19日)。
「追いかける側でありながら余裕を見せ続ける女の子が、ちょっと大人になりたいけどウサギちゃんでもありたい——その心理を描いた曲」。それがCatch Catchだ。
これが2026年の韓国女性に刺さった。前出のラド氏はこうも語っている。
「かつては韓国の女性歌手は”あなたが好き”という内容を歌っていた。今は”私が主人公で、恋愛も自分がリードしたい”という内容が多い」
IVE・LE SSERAFIM・ITZYなど、主語が「私」の楽曲が主流になってきた流れの中に「Catch Catch」はある。ビジュアルは全く違うが、歌詞の世界観は2016年頃からK-POPで隆盛を極めた「ガールズクラッシュ」の流れも多少は組み込まれているからだ。
ただしガールクラッシュがこれまで「かっこいい・強い」路線だったのに対し、この曲の語り手は「かわいい・気まぐれ・ウサギちゃん」のまま主導権を持つ。「強さを見せずに強い」という女性像だ。
【韓国トレンドキーワード】 ガールクラッシュ=ガルクラって何? K-POPの主流になったワケ
現地メディア「ニューシス」のイ・ジェフン記者は2026年5月10日にこんな内容を記した。「イェナが生み出すキッチュさは、滑稽さで消費されるのではなく、正確な自分探しの美学に近い」。
DA DA RA DA DA——意味のある言葉を手放して軽やかに流す、そのフックに、この曲のすべてが詰まっている。ちょっと大人になりたい。でもウサギちゃんでもありたい。その両方を抱えたまま、駆け引きをして、最後の一瞬だけ隙を見せる。単なるフックソングではない。深い意味のある楽曲なのだ。
(了)
【この楽曲の背景にあるもう一つの要素「ニュートロ」】について
【韓国トレンドキーワード】 NEWTRO(ニュートロ) 絶対に抑えておきたい「韓国っぽ」の素のひとつ!
初出:Yahoo! ニュースエキスパート 吉崎エイジーニョ