【韓国トレンドキーワード】 ガールクラッシュ=ガルクラって何? K-POPの主流になったワケ



日本では「ガルクラ」とも呼ばれる。
韓国では「ゴルク」という略称もあるのだという。

ガールクラッシュ。

元々は英語で「通常、性的ではない女性や少女が、他の女性や少女に対して抱く強い好意や賞賛の感情のことを指す。加えてこの感情の対象となる人物のこと」(Oxford 英英辞典)。

これが主にK-POPのシーンで様々な意味で使用されている。近年は「意味が多様化しすぎ」との批判もあるほどだ。

わかりやすく言うと、こういうことだ。

「女子にモテる女子」

その要素として韓国ではファッションやスタイル、リーダーシップ、美貌、社交的な性格などが挙げられる。ここ1~2年に限定すると「自分を持っていて」「主張できる人」のニュアンスが強い。

かっこいいんだが「セクシー」で男性に支持されるのではなく、あくまで女性に支持されてのことだ。

YGの2グループが牽引役

「ガルクラ」の元祖は2009年デビューの2NE1とされる。YGエンターテイメント所属だから、BLACK PINKの先輩格ということにもなる。彼女たちがヒットチャートで1位を獲得した楽曲の一部を抜粋してもそのコンセプトがよく分かる。「I Don’t Care」「Follow Me」「Go Away」「Can’t Nobody」「I am The Best」。いずれも「私が主役」と主張するもの。当初は女性アイドルと言えば可愛いもの、男性に支持されるものという固定観念のなか、少数派だった。

いっぽう近年では2016年8月デビューのBLACK PINKが登場したあたりから「ガルクラ」がK-POPガールズグループの主流スタイルとなった。2022年秋以降デビューの「第4世代」はこのスタイルが軸となっている。IVE、LE SSERAFIMなどだ。

彼女たちは見た目にはかわいらしさが垣間見えても、歌詞の内容の多くが「自分らしくあろう」と主張するコンセプトだ。

TWICEの初期の楽曲の多くを手掛け、現在はSTAYCのプロデュースを手掛ける作曲家のブラックアイドピルスンのラド氏にインタビューした際、こう言っていたことがある。

「かつては韓国の女性の歌手は”あなたが好き”という内容を歌っていた。今は”私が主人公で恋愛も自分がリードしたい”という内容が多いですよね」

ガルクラで紐解くIVE、LE SSERAFIM、aespa、ITZY

確かに近年活躍するグループにはこんな傾向が見られる。

IVE
御存知の通りグループ名は「I HAVE=IVE」から来ている。「私、そして私たちが持っているものを、IVEらしく堂々とした姿で見せる」という決意が込められている。

デビュー2曲めの「LOVE DIVE」は「私はあなたが気になってる それはあなたも同じこと」と歌い始める。自分主体でグイグイ主張する恋愛観はまさに「ガルクラ」。楽曲全体も「愛する勇気があるなら飛び込んできて」というコンセプトだ。韓国でグループの知名度を大きく上げた「AFTER LIKE」でも「LIKEの次は何なのよ?」と相手に問いかける強気の姿勢を見せる。

starship entertainment

LE SSERAFIM
こちらもご存知グループ名は「I’m fearless(私は恐れを知らない)」から。デビュー曲「FEARLESS」には「欲を隠せというあなたの言葉はおかしい」「謙遜する演技みたいなこと これ以上はやらない」という歌詞が。自分らしく、自分を出していくという姿勢だ。

aespa

実は韓国では「SMエンターテインメントのなかでは「既存の女性グループの流れではなく、むしろEXOなどの男性グループの流れを継ぐグループ」との評価もある。強さ、カッコよさが色濃く見えるということ。また同社のガールズグループは「個性あふれるメンバー構成 」でも知られてきたが、aespaに関しては「個性の近いメンバーを揃えた 」とも。それくらいにコンセプトを先鋭化させているのだ。2021年5月17日に「Next Level」をリリースした際にはSNS上で「aespaとともにNext Level 強襲一勝負gogo」というプロモーション広告が展開された。aespaが引っ張る存在になる、ということ。これもガルクラ的なものだ。

ITZY

第4世代ではないが、じつにストレートな「ガルクラ」だ。「自分でありたい」というテーマ性のある曲を多く歌う。「WANNA BE」はタイトルそのまんま。2022年のヒット曲「SNEAKERS」にも「私として生きていたい(ナロサルゴシッポ)」という歌詞が出てくる。グループ名の由来は『EVERYTHING YOU WANT IT’Z IN US ITZY? ITZY!(君たちが望むもの、すべてあるよね?あるよ!)。ただ韓国語で「있지(イッチ)」といえば「存在してるでしょ?」というニュアンスに聞こえる。「自分でありたい」というニュアンスが込められたグループ名だ。いっぽうで彼女たちのジャンルは「ティーンクラッシュ」という説もあるが。

なぜ流行るのか? 「フェミニズム」と「ナノ化社会」

このガルクラが流行する社会的背景もある。

ひとつめは韓国でのフェミニズムの高まり。

2017年から始まる左派の文在寅政権時代に「平等」「人権」を求める風潮が強くなり、そのなかでフェミニズム論、反フェミニズム論、ジェンダー論が盛んに論じられた。2019年12月にはソウルの大学で起きた「女性が男性を盗撮」という事件に対し、女性団体側が「不当捜査」としてデモの輪が拡がった。当時は「男女分裂の時代」という傾向も報じられたほどだ。

もうひとつは韓国での「ナノ社会」という傾向。

会社、学校、近所、家族、友だちといった括りではなく「私個人」が重要という考え方だ。ソウル大学のキム・ナンド教授のグループが毎年10月に発表する書籍「トレンドコリア」の2022年版(2021年10月発売)に掲載された。

もともと韓国でも「ベイビーブーマー世代」「X世代」「ミレニアル(M)世代」「Z世代」と時代が進むにつれ、共同体の価値よりも個人の価値を重要視する傾向が指摘されてきた。

そのなかでよりこの傾向を強めたのが「スマホの定着」だ。完全に個人向けにカスタマイズされている機器なのだ。夕食のチキンをスマホで注文し、水のまとめ買いをECサイトの自分で溜めたクーポンで注文する。夜にはYouTubeが推薦するアルゴリズムに載った昔のテレビ番組を2時間見て、そのあとインスタグラムやカカオトークで友達の近況を確認する。

これ全部自分用にカスタマイズされた世界のことだ。何せ支払い履歴、サイト訪問履歴、YouTube、インスタグラム、カカオトークでも、自分の関心事を基にした広告やコンテンツが表示されるのだ。こうして「個人化=ナノ化」が進む。若い消費者たちは「たったひとり自分が何者か」を重要視する。ちなみに韓国で大流行の性格診断「MBTI」もこの流れにある。既存の「血液型」や「星座」などの占いよりも、さらに自分にカスタマイズされたものに近い情報を伝えてくれるのだ。

こういった流れの結果、ガルクラのように「私は私」「主張して、恋愛でも自分が主体になる」と言ったメッセージ性が支持を集める、というところだ。

女性ファンに支持されるコンテンツの重要性

ファン側のニーズがあるとすれば制作側のニーズもある。

K-POP業界内で定説となっているのは「結局、女性にウケなければ、そのグループがバズることはない」。日本でも大手韓流媒体の読者は女性が8割とされる。ゆえにK-POPは「男性グループが多い」世界だ。

そのなかで新たなマーケットを開拓したのが「ガルクラ」でもある。他でもない、女性が応援する女性グループが多く形成されてきたのだ。

近年では「暴力的」「マナーが悪い」といった傾向を助長するものとしての批判もある。いっぽうでK-POPとてすべてがガルクラというものでもない。それ以外を志向するものもある。

NMIXX…MIXPOPという独自の音楽感を謳っている。

STAYC…10代の瑞々しさを表現する「ティーンフレッシュ」のコンセプト。

参考までにテヨン(少女時代)、IUなどは「ガルクラではないが女性に人気がある」存在だとされている。

また「K-POP以外でのガルクラ」も多数存在する。その意味の多様性を感じさせるものだ。

キム・ヨンギョン(女子バレーボール選手)=1988年生まれのベテラン選手。192センチの長身アタッカーはそのリーダーシップ、愛嬌などで完全に女性ファンを虜にしている。応援席では「結婚して」とのプラカードが掲げられるほどだ。女性ファンから。

キム・ゴニ現大統領夫人=2021年の大統領選の際、敵陣営メディアから電話取材時の余談の音声データを暴露される騒ぎがあった。その内容は「あいつら(敵陣営)、全員監獄にぶちこむ」「保守の政党の人たちもみんな馬鹿なのよ」「こっちのほうがお金があるわ」といったぶっ飛んだ内容。すわ選挙戦大ピンチ、と思われたがなんと逆にファンクラブの動きが活発化し、危機回避するという現象が起きた。「言ってることは酷いが、正論でもある」との主旨から「ガールクラッシュ」とも呼ばれた。これは男性が見て「かっこいい女性」という意味での用法だ。

愛の不時着=第14話でク・スンジュンがソ・ダンを夜の橋の上に誘う。婚約破断に落ち込むダンを励ますべく、褒めちぎるシーンでこう言う。「ここ(北朝鮮)で僕を助けてくれる姿なんて、完全にガールクラッシュ」。これも同じく、男性が見て「かっこいい女性」の用法。もっとも北朝鮮の女性が「ガールクラッシュ」なんて英語、分からないと思うが。いや韓国の映像をこっそり見ていたら分かるか。

いずれにせよ「ガールクラッシュ」とは多様な意味があるものの基本的には「女子にモテる女子」の意味で、近年では「自分らしく」「主張できる」存在を言う。本格的にブームになって7年。今後どういった展開があるだろうか。