2026年 韓国はどうなる? 「人間とAIの関わり合いで大切なこと」とは? ベストセラーが大展望 

著者=吉崎エイジーニョ(本サイト編集長)

韓国の2026年はどうなる?

「下半身が馬で、上半身が人間というケンタウロスのような人間が生まれていく一年」

2025年の晩秋にも韓国のベストセラーランキングで6週連続1位を記録した『トレンドコリア2026』はこう綴る。

毎年10月上旬に販売となり、ソウル大学消費者学科のキム・ナンド教授のグループに徹底的な聞き込み調査と討論を経て、翌年の韓国社会を展望していく同著。

韓国で大いに参考とされる展望書は、「HORSE POWER」という10文字で2026年を予測する。

丙午年、赤い馬の年を象徴するキーワードだ。「H-O-R-S-E」の5文字と「P-O-W-E-R」の5文字、合わせて10のトレンドキーワードの頭文字を取ったもの。キム教授は人工知能時代の人間を、下半身が馬で上半身が人間のケンタウロスに例える。馬(HORSE)のような効率性と、人間的な力(POWER)。この二つが弁証法的に統合される年が2026年だという。

昨年11月上旬、ソウル市内の大型書店で本書を手に取った。各キーワードを順に追っていく。

ではHORSE POWERって何?

最初の「H」は、Human-in-the-loop(ヒューマンインザループ)だ。AIが業務を遂行する過程で、人間が少なくとも一度は介入すべきだという哲学を指す。2024年の夏、アメリカのあるメディアで休暇に読むべき本15冊を掲載したが、後に10冊が存在しない本だったと判明した。AIが幻覚によって作り出した架空の本だった。人間が命令を与え、ファクトチェックをし、加工して活用すれば起きない問題だった。ハーバード大学の研究によれば、専門性が高い人がAIを活用すればその専門性はさらに上がるが、能力が劣る人がAIに頼るとかえって成果が落ちる。ケンタウロス型人材が、AI時代の真の勝者となる。


「O」は、Feelconomy(フィールコノミ)。「Oh, my feelings!」というフレーズに象徴される造語だ。気分(Feel)と経済(Economy)を組み合わせた。消費の動機が、必要性や経験を超え、自分の気分や感情を管理し、望む方向へ転換させることへと移行している。書籍の中にはソウル市内のカフェで20代の女性に話を聞いた際の話が記されている。

「友達が『嫌なことがあってパン買った』って言ったら、昔なら『何買ったの?』って聞いたと思うんですけど、今は『どんな嫌なことがあったの?』って聞きますね。パンが目的じゃなくて、気分転換が目的だって分かるから」

これ、いままでなら「空腹だから買う」という必要性や、「美味しいパンを食べたい」という経験欲求からパンを買っていた。しかし消費の動機が、必要性や経験を超え、自分の気分や感情を管理し、望む方向へ転換させることへと移行している。これが「フィールコノミー」だ。企業の核心的な競争力は、消費者の気分を「より幸せに、より穏やかに、より楽しく」させる能力へと変化する。


「R」は、Zero-click(ゼロクリック)。「Results on Demand」を掲げ、AIが消費者の「探す」手間を省き、代わりに結果を提示してくれる現象だ。かつて検索窓でリンクをクリックして答えを探す構造だったが、AIは質問一回で直接答えを与える。クリックという行為が極度に減る。マーケティングパラダイムが変わる。過去は顧客の検索で自分のブランドを上段に露出させることだった。今はAIのアルゴリズムに最適化されたマーケティングが重要だ。ブランドよりも商品力が重要になる。「S」は、Ready-core(レディコア)。予測不能な時代において、「準備された(Ready)」状態を人生の「核心(Core)」とする生存方式だ。

映画『パラサイト』の名セリフとして韓国で知られるフレーズがある。

「息子よ、お前には計画があるんだな」。

今の韓国の若い世代は、諦めず熾烈に計画を立てる。結婚、出産、老後などの主要なライフイベントをあらかじめシミュレーションし、先制的に学習・計画する。ある友人は結婚する人からカカオトークでExcel表を受け取った。1案は結婚後すぐ出産、2案は出産しない場合のキャリア開発。婚姻届けはいつ出し、家はいつ用意するか。年度別に立てた表を義理の両親に送ったという。幼少期から先取り学習に慣れた自己主導学習世代が、大人になっても人生全体を経営・管理しようとする。


「E」は、「Efficient Organizations through AI Transformation(AI変革を通じた効率的な組織)」AI Transformation(AX)を通じて、効率的で柔軟な組織へと変貌することを目指す。AIの導入は生存の必須条件となり、従来の垂直的な階層構造から、ウルトラフラットで距離ゼロな組織へと変化する。部署間の境界が崩れ、職級も圧縮される。部長や役員がAIを連れて直接実務をする

ソウル市内の大企業に勤める30代男性はこう話した。

「うちの会社、最近部署の壁が本当に低くなりました。マーケティングの人が営業の会議に入ってきたり。AIツール使える人が重宝されてます」

既存の知識を捨てるアンラーン(unlearn)ができ、専門性とAI活用能力を兼ね備えた人材が求められる。

「POWER」とは?

 

ここまでがHORSEの5文字だ。続いてPOWERに入る。

「P」は、Pixelated Life(ピクセルライフ)巨大な潮流(メガトレンド)が消え、細分化されたマイクロトレンドが連続するライフスタイルだ。デジタルの最小単位「ピクセル」のように、消費も最小単位での体験、多層的な経験、刹那的な享受へと細分化される。YouTubeは「急上昇」という用語をなくした。サブカルチャーがあまりに多く、一箇所に集めて急上昇と言う意味がなくなったからだ。一つの好みに固執せず、短く多様な経験を積み重ねることで、人生の解像度を高めようとする。


二つ目の「O」は、Observant Consumers: Price Decoding(プライス・ディコーディング)。観察力のある消費者が製品の価格構造を「解読(Decode)」し、その正当性を見極める現象だ。ある製品が100万ウォン(約11万円)だとする。今の消費者は「なぜ100万ウォンなのか」を問う。原価、流通マージン、ブランド価値を調査し、「実質価値は60万ウォン。残り40万ウォンはブランド代だ」と分析する。自分の価値観に合わなければ買わない。

この結果、ブランドがなくても似た性能を出す「Dupe(デュープ)」が人気を集める。韓国Kビューティーのインディーブランドが世界市場で力を出せたのも、ブランド力より商品力で勝負したからだ。企業には、価格設定の透明性と説得力が問われる時代になった。


「W」は、Widen your Health Intelligence(健康知能HQ)。単なる寿命の延長ではなく、生活の質を確保するために健康情報を能動的に判断・管理する能力だ。100歳時代「ホモ・ハンドレッド」において、HQ(Health Quotient)は必須の生存能力となる。科学的根拠に基づく科学的管理、必要に応じた医療的管理、生活環境まで考慮する総体的管理の3つの特徴を持つ。若い世代が血糖値やビタミン摂取量を細かく管理し、老後に備える姿が見られる。


最後の「E」は、Everyone Is an Island: the 1.5 Household(1.5世帯)一人はいいけれど、独りぼっちは嫌だという心理から生まれた、新しい家族・居住形態だ。個人の自律的な暮らし(1)を維持しつつ、経済的・心理的な負担を減らすために緩やかな繋がり(0.5)を求める、戦略的連合のような形態だ。1人世帯の自由さと、多人数世帯の安定感のいいとこ取りを目指す。同じマンションに住む友人同士が共有キッチンを使う、同居人がいても各自の冷蔵庫を持つ、といった形が増えている。超ソロ社会における実利的な進化といえる。


最後の「R」は、Returning to the Fundamentals(根本イズム)。AIが何でも生成できる時代だからこそ、変わらない根源的な価値や本物を追求する傾向だ。最先端技術への反動として、伝統、クラシック、アナログのロマンが再評価される。経験したことのない過去への郷愁「アネモイア」を感じる若い世代も増えている。LGが発売したレトロデザインの家電が爆発的に売れた。Z世代への調査では80%以上がデジタル依存を認め、60%がデジタル以前の時代を懐かしむと答えた。強固な根本の上に立って未来の革新を目指す姿勢が重要になる。


HORSE POWERという10文字。このうち、「P」「W」「E」は近年の韓国の「かつてのような集団ではなく、個々人の考えによって消費傾向が変わる」という傾向を継ぐものだ。前年までは「ナノ化経済」「細胞化社会」といった表現もなされてきた。いっぽうでそれ以外はAIと人間のかかわりに関するものだ。馬のような効率性と、人間的な力。効率と本質を見つけ出す力。AIは発展を遂げるが、人間もまた独自の一手を見出さねばならない。2026年の韓国は、この二つをいかに統合するかが問われる年になるという。