奇しくもここ3ヶ月で、韓国のZ世代トレンドを扱う2媒体が同じとあるキーワードに関する記事を配信している。
「浪漫(ロマン)がZ世代の話の掴みになる理由」(careet)
「浪漫を記録し、応援する人たち」(SOME TREND)
韓国語では「浪漫(ナンマン)」という。
由来は日本語から。「Roman」自体はフランス語で「ロマンス語で書かれた小説」という意味だが、これを夏目漱石が「恋愛や冒険に期待する気持ち」という訳語として1907年に小説雑誌に掲載した。英語の「Romantic」の意味に近いものだ。
これが韓国にも伝来していき、2023年の今、若者の間でブレイクしようとしている。
カフェでの静かな時間に…
最近の韓国のZ世代を中心に、日常生活やスポーツ、SNSなどのさまざまな場面で「浪漫(ロマン)」というキーワードが急速に広がっている。これは単なる流行りの言葉ではなく、Z世代が日常の中で「浪漫」を感じ取り、それを共有することで、より深い人間関係やコミュニケーションを築こうとしているのだ。
韓国のZ世代は、カフェでの一人の時間、友人との会話、さらにはスポーツ観戦など、日常のさまざまな瞬間で「浪漫」を探している。
例えば、カフェで。
雨の音。そして店内にかかるK-POPガールズグループ「Everglow」の楽曲。
彼女は、この瞬間を「あなたを思い出して」とSNSに綴り、過去の思い出や感情を振り返りながら、その場の雰囲気や音楽に浸る。
これが「浪漫」。
また、2023年9月20日の「careet」記事によると、Z世代は最近、「浪漫」というキーワードをSNSやYouTubeのコメント欄などで頻繁に使っている。
「浪漫、それ自体があなた」といった使い方がなされているのだ。
ビッグデータ分析サイト「SOMETREND」によれば、2021年1月以降、オンライン上での「浪漫」に関する言及は2.6倍に増加している。同時にそれまで多く使われていた「恥ずかしい(오글)といった自分や相手をイジるキーワードの言及は減少しており、Z世代の感性や価値観の変化を示している。
また「careet」が実際にZ世代の中でインタビューを行ったところ、多くの人々が「浪漫」という言葉を日常生活の中で使っていると感じていることがわかった。特に、大学の生活や恋愛の話題など、さまざまな場面で「浪漫」という表現が使われている。日常の中の小さな幸せや感動を再認識し、それを共有することで他者とのつながりを深めているのだ。
サッカーやeスポーツも対象に
この傾向が多く観られるのは、スポーツやエンタメの世界でも同様だ。
先のサッカーのカタールワールドカップにおいて、サウジアラビアがアルゼンチンを下し、そこからアジア勢の躍進が始まった。これが「サウジから始まった浪漫」と表現された。試合の結果やドラマティックな展開を「浪漫」として楽しんでいるのだ。同大会では多くのサプライズや予想外の結果が話題となり、Z世代の間で大きな反響を呼んだ。
何より、韓国代表のベスト16入りでは、チームワークが「浪漫」と捉えられた。
また、2022年11月6日のeスポーツ「リーグオブレジェンドワールドチャンピオンシップ」でのプロゲーマーチームDRXの意外な勝利もそうだった。ゲームをよく知らないZ世代にも大きな話題となったドラマ。その勝利の背後には、逆転や努力、そしてチームワークといった「浪漫」が溢れていたのだ。
いっぽう、ここ最近ではバンド「ESEGYE 」の曲「浪漫・若さ・愛」という楽曲がブームとなっている。2020年リリースにもかかわらず再び人気に。歌詞ではこう歌われている。
僕らはロマンスという船に乗って旅立つ
僕らは若さという船に乗って旅立つ
僕らは愛という船に乗って旅立つ
何も知らないけれど、僕らは大丈夫だろう
韓国メディア「企業はこの感性を理解すべき」
日本でも数年前、若い世代の間で「エモい」というキーワードが流行った。そこには「懐かしい感情を思い出し、テンションが上がる」というニュアンスがあった。この韓国の「浪漫」は日常の何気ないシーンやチームワークなどに「恋愛、冒険を思わせるときめき」を感じさせるもの。熱い感情が巻き起こるのだが、これを「エモい」より少し静かな感情で表現し、共感し合う。そういったニュアンスだ。
近年、韓国で先にトレンドになり、その後日本にもそれが伝わってくる流れもある。「レトロブーム」や「ガルクラ」「ギャルピース」などだ。今後、「浪漫(ロマン=ナンマン)」は日本にも伝わってくるだろうか。
「SOMETREND」は韓国での今後の流れについてこう予測している。
「このキーワードは韓国のマーケティングやコンテンツ制作の中で重要な要素として注目されることだろう。企業やクリエイターは、Z世代の『浪漫』に対する感性を理解し、それを取り入れたコンテンツや商品を提供することで、彼らとの強固なつながりを築くことができるはずだ」