「NewJeansの母」 ミン・ヒジン氏解任を読み解く4つの視点 「姑息?」「なぜ今?」「韓国の反応」「今後」

27日に飛び込んできた「ミン・ヒジン氏代表取締役解任」「NewJeansのプロデュース職は継続」のニュース。

ミン氏が代表取締役を務めてきたADORの親会社であり、K-POP最大手の事務所HYBEの発表内容は以下の通りだった。

「27日に取締役会を開催し、キム・ジュヨンADOR社内取締役を新任代表取締役に選任した」

「キム新任代表取締役は様々な業界で経験を積んだ人事管理(HR)専門家として、ADORの組織安定化と内部整備の役割を担う予定」

「(ミン前代表が)NewJeansのプロデュース業務もそのまま担当することになる」

「ADOR内部の組織も制作と経営を分離することになる。これは他のすべてのレーベルに一貫して適用されてきたマルチレーベル運営の原則だったがこれまでADORだけは例外的に代表取締役が制作と経営の両方を総括してきた」

「今回の人事と組織整備を機に、ADORはNewJeansの成長とより大きな成功のために支援を惜しまないつもりだ」

いったいどういう事態なのか。そして今後はどうなるのか。

 

①姑息な 電撃的手段だったのか

そうとは言い切れない面もある。

HYBEは、子会社たるADOR人事に対して、行使できる最後の権限をここで行使した。そういうことだ。

HYBEとすれば、5月31日の株主総会での解任に「失敗した」。株主会議は、会社の意思決定において最大の権限を持つ。しかし、その次に権限があるものとして取締役会が存在する。ここでも代表取締役の任命権を持ちうる。

ミン・ヒジン氏側も当然これを知っていて、5月31日の2度目の記者会見でこう口にしていた。

「依然としてそのミン・ヒジン代表が代表取締役から解任される可能性があります。そのため、その点(株主総会で解任されずに安堵)について理解を正したいと思います。なぜなら、代表取締役は取締役会で選任されるため、取締役たちの決議さえあれば代表取締役から解任されることがあり得るからです」(同席した弁護士)

この時点ですでに親会社のHYBEは、取締役4人すべてをADORからHYBE派へと変更していた。

「ADORが取締役会を開催すれば、私たちは悩むことになります。その取締役会の開催を禁止する仮処分を再び申請して、皆さんを含め多くの人々を苦しめなければならないのか、そのようなことを考えています」(ミン・ヒジン氏本人)

ただ一つ、「電撃的」といった要素があるとすればミン氏側が28日に反論プレスリリースで伝えた「HYBE側が取締役会議の招集期間通知期限を直前に変更した」という点だ。本来は一週間前の通知義務があったが、直前に「1日前」に変更したという。

一方、韓国内ではHYBE側が取締役会議を開催しないのではないか、という読みもあった。本件でたびたび意見番としてSNSでのコメントがメディアに引用されてきた弁護士、イ・ヒョンゴン氏は6月1日にこう綴っている。

HYBEが取れる唯一の方法は、取締役会の決議で代表取締役を交代させることだが、これには正当な理由がないだけでなく、株主間契約や仮処分決定の趣旨に反する内容であるため、後にかえって反撃を受ける可能性が高い。

②なぜ今?

しかし、ミン氏側は決定を受け、以下のように反論している。

「今回の解任決定は株主間契約と(裁判所による)議決権行使禁止仮処分決定に正面から反する違法な決定」

5月30日の裁判所の決定では「5年間の契約期間において、ミン・ヒジン氏が代表取締役を全うできるようサポートすること」と判決が出たのに、HYBEはこれを裏切ったのだと。

さらに前述の通り、HYBE側がわずか1日前に定款(会社の明文化されたルール)を変更し、株主会議を開催してきた点を「十分に考える時間を与えなかった」と意見している。

ではなぜ、HYBE側は今この時期に取締役会議を通じての解任を?

5月末の解任に失敗したのなら、すぐに次の権限である取締役の会議を活用できたのではないか?

HYBE側はこの点を明確に明らかにしていない。一方で韓国メディア側はこんな予測をしている。

「考えられる理由は3つありますね。まずは5月31日にミン氏が会見で『和解案を話し合おう』と呼びかけた後、本当に両者が話し合ったが決裂したということ。2つめは8月13日に大きく報じられた、ミン・ヒジン氏によるセクハラ隠ぺい疑惑。元社員の証言が出てきたことにより、HYBEの企業イメージに悪影響を与え、解任の決断を後押しした可能性も考えられます。そして3つめは、NewJeansの活動に影響を与えないよう、ミン・ヒジン氏の解任時期を慎重に調整した可能性も指摘されています」(韓国経済紙スポーツ担当記者)

③韓国の反応は?

昨日の時点でのこの報の大きな要素は「代表取締役を解任」「NewJeansのプロデュースは継続」だった。多くのメディアがこの点を見出しで簡潔に伝えるなか、この視点での報道が特徴的だった。

「代表職も、1,000億ウォンのプットオプション(任期満了時の株式売却権)も失ったミン・ヒジン…HYBEの一方的通告に反発」(マネートゥデイ)

職位もカネも失った、という視点だ。

「『NewJeansの違約金は数千億ウォンに及ぶ可能性』…追い詰められたミン・ヒジン、『NewJeansを諦める』か『プライドを捨てる』か」(韓国日報)

NewJeansとともに会社を出ていくにも、高い違約金が必要。ミン氏は解任・降格の屈辱とどう向き合うか、という見方だ。

「ミン・ヒジン対HYBE対立…『株主間契約の解除』の違法性が分かれ目に」(ソウル新聞)

6月以降の時間の中で、両者は話し合いを持った。HYBE側はその過程で、裁判所がミン氏の代表取締役業務遂行の保護を指示した「株主間契約」の破棄を主張。しかしミン氏はこれを認めていない。これがどう解釈されていくのか。

④今後はどうなる?

韓国メディアの予想は真っ二つに割れている。

これで騒動は終わるのか v.s. 第2ラウンドに本格的に入っていくのか。

「代表職もプットオプションも失うことになったミン・ヒジン… HYBEとの対立に一段落?」(朝鮮ビズ)

「ミン・ヒジン、ADOR代表から解任…『経営権紛争』第2ラウンドへ?」(ハンギョレ新聞)

HYBEが今回施した人事のように、韓国ではクリエイティブと経営を分けて考える、ということはよくあること。

実際にKARAやRAINBOWが所属したDSPメディアの一部経営陣が2010年代中盤に「本当はクリエイティブに専念したい」意向を口にしていたこともある。

第2ラウンドに入るとしたら、先の「契約解除」や「直前の取締役会議招集」を巡っての不当性を主張していくのではないか。これまで2度の会見で本人は幾度も「代表取締役職にこだわりはない」「子会社であり、持ち株率が低い自分が不利なのは明らか」という点を口にしている。ただその一方で「力の強いものにただ従うという前例を作りたくない」と、1度目の会見で語っていた。再度戦うとするのなら、その点だけを争点に持っていくだろう。