季節の変わり目がやって来た。11月中旬に入り気温がぐっと下がってきている。14日の都内の最低気温は5.9度。空気の乾燥も進んでいて、体調や肌の状態のコントロールも難しいところ。
筆者も数年前に韓国取材で出会った大邸の高級化粧品ブランド「ラジェニサント」のスキンケア用品を愛用し、肌の状態にはひっそりと人一倍気を払っているが「ああ、肌が乾燥してきたな」「対策を考えないと」と感じる。
この折に、韓国からコスメ企業30社以上が来日してのイベントが行われるという情報を聞きつけた。「2023年 ワンアジア化粧品・ビューティーフォーラムおよび1対1企業マッチング商談会」(主催:韓国政府食品医薬品安全処、後援:韓国化粧品協会、日本国内問い合わせ先:有限会社コアビズ@東京都新宿区)。11月20日に都内・神田にて日本側の業者を招いての商談会が行われる。
ならば、Kビューティー(スキンケア用品、化粧品)の本場でのトレンドを知りたい。そう思い立った。
主催者側にインタビューを申し込んだ。筆者は2021年にも「韓国の春夏の季節の変わり目には“ボディミスト”が流行」という記事を記したことがある。さっぱり読まれなかったが、韓国のいいものを見つけ出し、日本に紹介するという使命感は持っている。
ところが…先方からの返答は「韓国化粧品協会副会長インタビューでいきましょう」。
えっ? 副会長は男性だった。流行に敏感な女性に話が聞けると思ったのに。「トレンドの話は20日に東京で」という流れとなった…。
というわけで、ここでは「男同士のKビューティートーク」を。
せっかくなので今までになさそうな視点で。今、韓国のコスメ業界は自らの状況をどう見ている? そして日本のマーケットへの視線は? 思えば今年は「韓流20周年(「冬のソナタ」の日本の放映開始から20年)」でもある。副会長に「現在地」を聞いた。
20年のなかで「コロナが転換期」 日本市場のある“成長”も作用
――今日お聞きしたいテーマはざっくり2つあります。ひとつは「韓国のKコスメ業界側が日本市場をどう見ているのか」そして「Kコスメの強みを韓国側が自ら、どう見ているのか」という点です。まずは前者から。
(韓国化粧品協会ヨン・ジェホ副会長)「韓国サイドから見れば、もっともっと日本の消費者のニーズ分析が必要だと考えています。日本製品と競争するのも必要なことかもしれませんが、日韓共同開発も進めて、消費者によい形で製品を提供できる。まだまだ我々の努力が必要。そう考えています。今はまだ日本での韓流ブームの影響のおかげで進出が果たせた、という段階だと思います」
――そうですか? Kビューティー、かなり認知度が高まっていると聞きますが。韓国といえば美容、そういったイメージもありますが。
「日本の市場では新型コロナのパンデミックの時期にむしろ輸出実績が成長した、というデータがあります。今では中国、アメリカに次ぐ世界3位の市場です。韓国ではある程度オンライン販売市場が成熟し、飽和状態になってきたのと比べ、日本はオンライン市場が成長し続けている点も背景の一つだと思います」
――コロナ、といえばその間に日本で第4次韓流ブームが起きました。2003年に韓流ブームが始まって、およそ20年目の出来事でした。例えば20年前に韓国の化粧品が日本で売れる、というのは想像も出来なかったのでは?
「確かに。韓国の化粧品業界はこういった時が訪れることを望んでいましたが、実際にそうなると、慎重にもなるものです。日本の消費者の皆様に愛されている理由をもっと分析し、私たちが何をすべきか、このような問題を継続的に研究していかなければなりません」
――思えばこの20年間、日本での韓流では色んなことがありました。冬ソナブーム。2010年からはKARA、少女時代が牽引したガールズグループのブーム、2017年前後にはSNSを中心に若者に浸透した第3次韓流ブームがあり、そしてコロナでの巣ごもり生活による第4次韓流ブームも巻き起こりました。先ほど副会長は「コロナの時代にむしろ成長」というお話をされました。ズバリお聞きしましょう。この20年間、「Kコスメの日本市場での成長」にとって、決定的な影響のあったコンテンツは何ですか? ちなみにパンデミックの頃には「愛の不時着」「梨泰院クラス」「サイコだけど大丈夫」といったドラマのヒット作もたくさんありましたが。
「ARMYです。パンデミック時代の日本のARMY」
――えっ? BTSのファン? 何より、それ以前から日本でのKコスメはイケてましたが。特に2017年頃からSNSで若い世代の間に「プチプラ」というキーワードでもてはやされた印象です。ちょっと高級な新しい商品もどんどん出てきて、勢いあるな~と。
「韓国側の見立てでは、日本への輸出実績がより高まったのはパンデックの時代です。ARMYがなぜ素晴らしかったかと言うと、多くの方々がBTSを通じて韓国の文化を調べてくださった。その過程のなかで『化粧品もある』ということに気づいてくださったと思うんです。直接的にBTSが広告に出演したり、PRしたものは全体の数からすれば少ないものかもしれませんが、間接的に韓国の文化に接してくださった影響はとても大きいです。それが日本でのオンライン販売の成長と上手く重なり、よい輸出実績へと繋がっていったと見ています」
――ではそれ以前の韓国でのKコスメ業界の動きはどうだったのでしょう?
「海外進出という点で見ると、最初に最大の成果を上げた市場は中国です。K-ビューティーが非常に注目され、同時に成長しましたが、パンデミックの期間中に相互訪問ができなくなったため、中国市場での韓国化粧品の影響力がコロナ以前よりもかなり落ちています。我々は中国市場に意識を集中させていたことを少し反省しています。アメリカや日本、ASEANや南米、中東などの国々に対してアプローチし、韓国化粧品のグローバル化のための絵を新たに描く必要があるという議論が続いています」
韓国には「化粧品について専攻できる大学がある」
――では次に「Kコスメの強み」について。韓国の業界が自らをどう捉えているのでしょうか。
「我々の強みは、新しい試みを非常に多く行っている点にあります。最近では、従来使われてきた化粧品原料だけでなく、隣接する産業分野の成分やメカニズムなどを多く採り入れています。医薬品や健康食品を開発してきた業者、専門家たちがそれらの成分を化粧品に応用しようと多くの試みを行っているのです。また、韓国には『広告実証制度』という制度があり、製品の効能を実証するというプロセスを持っていますが、これを実験できる機関が多くあります。最近では口から摂取する『インナービューティー』について多く言及されていますが、健康食品化粧品を併用して、新たな肌へのアプローチを図るというものです」
――そういった試みをサポートする法的制度や投資制度もあると。
「韓国政府の保健福祉部(省)は化粧品産業の育成と発展のために、企業に研究資金を支援しています。日本でもよく知られているであろう韓国化粧品業界の大企業アモーレパシフィックやLGなどよりも、研究力を持ちながらも、まだ規模が小さく、資金力が不足しているスタートアップ企業に対してサポートしているのです。韓国には化粧品を研究し、専攻している大学の学部がかなり多くあります。産学研が協力して成果を出せるような国家R&D予算を割り当てているのです」
――よく日本では、「韓国のエンタメは政府の支援を受けて成長」というイメージが持たれていますが(注:K-POPは直接的に支援は受けていない)、コスメ、ビューティー業界にもそういったことがあると。
――なぜそういう制度が出来るのか。当然ニーズがあるからでしょう? それもまずは国内のニーズが。
「日本でも同じことでしょうが、韓国でも多くの女性が『美しい肌が美の最も重要な条件』と考えています。そのため、状況に応じた洗顔、スキンケア、さらに行く場所に合わせたメイクアップに多くの時間を使います。しっかり洗い流すことが重要で、洗い流した肌に再び水分を補給し、栄養を与え、オイルなどを供給して水分と油分のバランスを整えるステップがあります。すると多様な化粧品が必要となり、ニーズが生まれる。そういう流れがあります」
――お話を聞くにつれ、日本の化粧品と韓国の化粧品、競争も必要だが共同で作るという方法もとてもよいのではと感じました。K-POPだって日本人メンバーが韓国人とともに活動する時代です。先日は日本人だけのグループNiziUが韓国で活動したりもしました。
「とても良いことだと思います。我々が知る限り、日本は化粧品関連の基盤技術が強く、韓国は基盤技術よりも応用技術が強いです。それゆえ両国間が優れた点で交流しながら、競争力を強化し、消費者の選択肢を広げていけば、より発展的な成果を出せると思います。シナジー効果も十分に発揮できるでしょう」
――日本市場でのKコスメ、今後はどうなっていくでしょう?
「今話した共同製作はとてもよい考えです。合わせて韓国と日本の社会は似ている点がある点が重要だと考えます。両国は世界でも高水準で高齢化が進んでいる国だということです。悩みが同じなのです。今後、ともにアンチエイジング化粧品や機能性化粧品の需要が継続的に増加すると予想されます。日本の消費者のトレンドを反映した商品を韓国化粧品会社が継続的に開発すれば、さまざまな商品を日本市場に紹介できると予想します」
韓国側の視点でいうと日本進出の現在地とは「まだまだ足りていない」「やれることがある」と見ているというところ。それにしても、大学での化粧品専門課程が多くある、という点は恥ずかしながら初耳で、驚いた。エンタメと似た手法で日本を含めた世界進出への果たそうとするKビューティー。そんな姿を知ったインタビューだった。
ビューティー化粧品学科 – (グローカル)建国大学
化粧品学科 – 慶星大学
化粧品学専攻 – 同徳女子大学
取材・文=吉崎エイジーニョ(編集長)
初出=Yahoo! ニュースエキスパート